【プレスリリース】ヘルスケア領域に特化した生成AI活用のガイドラインを改訂
「ヘルスケア事業者のための生成AI活用ガイド」第2.0版
〜RAGなど急速に進化する生成AI技術と政策動向に対応、実践的な指針を提供〜
2025.02.07
日本デジタルヘルス・アライアンス(以下「JaDHA」)は、「ヘルスケア事業者のための生成AI活用ガイド」(以下「本ガイドライン」)を改訂し第2.0版を策定したので公表します。
本ガイドライン第2.0版は、生成AIを巡る最新の技術動向を反映し、RAG(Retrieval-Augmented Generation)や国産大規模言語モデルなどの新技術を解説するとともに、ヘルスケア領域における国内外の活用事例を大幅に拡充しました。また、国内・海外の生成AIを巡る最新の政策動向を整理し、製品・サービスを開発する上でのチェックポイントや認識・留意すべき事項について解説をしています。更に、医療機関等が生成AIを活用した製品・サービスを円滑に利活用するため、生成AIに入力する指示文や回答に含まれる情報の安全かつ適切な取り扱いのためのルールをはじめ、生成AIサービスを利用する組織内職員が遵守すべき注意事項をまとめた運用ポリシーのひな型を提案しています。
JaDHAでは、今後も、生成AIの特性を踏まえた安全な利用が円滑に推進されるために参考となるような情報を拡充することで、利用者が安心してサービスを選択し利活用できる環境整備に資する指針を提供していきます。
本ガイドライン改訂の背景
JaDHAは、2024年1月にヘルスケア領域に特化した生成AI活用のガイドラインとして、いち早く本ガイドラインを策定・公表しました。本ガイドラインは、ヘルスケアサービスを提供する事業者が、生成AIによる多様なサービスを創出し、利用者が安心してサービス選択できる環境を構築することを目的としています。
本ガイドラインは、経済産業省と総務省が2024年4月19日に取りまとめ・公表した「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」(注1)にヘルスケア業界における先進的かつ自主的な取り組み事例として掲載されている業界ガイドラインです。
本ガイドラインを公表した2024年1月以降、生成AIを活用した製品・サービスの開発や利活用が進展すると共に、生成AIを取り巻く技術環境は目まぐるしく進化しています。例えば生成AIの特性のひとつである事実でない回答を出力してしまう事象の低減に活用できるRAG(Retrieval-Augmented Generation)(注2)、海外モデルと比べ日本の制度や文化を前提にした精度の高いの回答が期待できる国産大規模言語モデル(注3)など生成AIの開発を支える新技術が誕生しています。
政策動向としても、2024年4月に経済産業省と総務省が公表した「AI事業者ガイドライン」では、AIの開発・運用に関して、事業者による自主的な取り組みの支援や国際的な議論との協調等が基本指針として規定されています。特に、人間中心、プライバシー保護やセキュリティ確保などの観点からAIを活用する上での基本指針が定められました。
このような2024年1月以降の技術動向や政策動向を踏まえ、業界固有の社会的責任やリスクを十分に考慮した取り組みを更に促進すべく、本ガイドラインの内容を大幅に拡充しました。
本ガイドライン改訂のポイント
JaDHAでは、ヘルスケアサービスを提供する事業者が、生成AIによる多様なサービスを創出し、利用者が安心してサービス選択できる環境を構築することを目的に、いち早く本ガイドラインを策定しました。生成AIを活用したサービスを設計・開発・提供する際に留意すべき事項について、大きく以下の4点を挙げてまとめています。
- 技術動向の解説を拡充し利活用にあっての留意点をチェックポイントとして取りまとめ
テキスト生成に外部情報の検索を組み合わせることで回答精度を向上させる技術であるRAG(Retrieval-Augmented Generation)の活用、日本語に特化した国産の大規模言語モデルの開発、軽量な言語モデルとして特定分野に特化した活用に強みを持つ小規模言語モデル(SLM:Small Language Model)の登場など、生成AIに関する最新技術の基礎情報を整理しました。また、最新技術の利活用にあたって留意すべき事項をチェックポイントとして新たに策定しました。更に、これらの新技術についてコラム形式で分かりやすく解説しています。
- 最新の政策動向を踏まえたリスク対応に関するチェックポイントを取りまとめ
2024年4月の経済産業省と総務省が公表した「AI事業者ガイドライン」では、AI活用のステークホルダーを開発者・提供者・利用者の3主体に分類したうえで、プライバシー保護やセキュリティ確保の観点から各主体が留意すべき基本指針がまとめられています。そこで、「AI事業者ガイドライン」で整理されている3主体と本ガイドラインで分類しているバリューチェーンとの対応関係を整理しました。更に、設計・開発段階で、個人情報へのアクセスを管理・制限する仕組みの導入を検討するなどのプライバシー・バイ・デザイン(注4)や、生成AIモデルの脆弱性を悪用した攻撃への対策を検討するなどのセキュリティ・バイ・デザイン(注5)の観点を踏まえ、「生成AIを活用したサービス・プロダクトを提供する事業者向けチェックリスト」を拡充しています。
- 国内外のヘルスケア領域での生成AI活用事例を拡充
2024年1月以降、生成AIを巡る技術の発展を受け、生成AIを活用した新たなサービス提供や企業・団体での利用の高度化が急速に進展しています。例えば、製薬企業において医学論文のトピックスを抽出・分析するシステムの導入、製品情報等の資材作成時の校正に生成AIを活用するなど、業務効率化に向けた利活用が加速しています。また、米国のスタートアップ企業は、診療記録作成の効率化や臨床試験データの評価精度の向上に貢献する生成AIサービスを提供しています。
このような背景から本ガイドラインでは、国内外のヘルスケア領域での生成AI活用事例の記載を拡充し、先進的事例として13事例を紹介、解説しています。 - 生成AIを活用した製品・サービスを円滑に利活用するための導入・運用ポリシーひな型の提案
医療機関等において生成AIを活用した製品・サービスを導入し円滑に利活用を進める上では、生成AIの活用にあたり考えられるリスク、それを踏まえた利用にあたっての注意事項を取りまとめた導入・運用ポリシーの策定が必要です。しかし、ポリシーを策定するにあたっての参考となる情報や事例に乏しく、利活用環境の整備に苦労される状況が存在します。
そのため、医療機関等で生成AIを利活用するにあたり、出力された回答をダブルチェックすることや利用目的外での使用を禁止するといった、職員が遵守すべき注意事項などを取りまとめた「医療機関等向け組織内生成AI導入・運用ポリシー」ひな型を提案しています。 - 海外におけるAI全般に関する法規制や制度に関する最新動向の解説
ヘルスケアサービスを提供する事業者が、生成AIによる多様なサービスを創出し、本邦に限らず海外での展開に取り組む動きも活発化しています。この様な背景から本ガイドラインでは、欧州・米国・中国・インド・韓国における生成AIを含むAI全般に関する法規制・制度について、直近の動向を追加し、海外展開にあたって認識・留意すべき事項について解説をしています。
なお、本ガイドラインは、ヘルスケアサービスのうち、原則として医療機器または医療機器プログラム以外での利活用を対象として策定しています。
「ヘルスケア事業者のための生成AI活用ガイド」第2.0版(概要版)
「ヘルスケア事業者のための生成AI活用ガイド」第2.0版(全体版 改訂履歴付き)
本ガイドラインの検討体制
本ガイドラインは、JaDHAの「WG4:デジタルヘルスアプリの適切な選択と利活用を促す社会システム ワーキンググループ」(以下「本WG」)にて策定しました。本WGは、ベンチャー企業をはじめ、医薬品企業からIT企業とヘルスケア領域に関わる幅広い分野の企業で構成されています。
- 味の素株式会社(https://www.ajinomoto.co.jp/)
- 株式会社Welby(https://welby.jp/)
- 小野薬品工業株式会社 (https://www.ono.co.jp/)
- オムロンヘルスケア株式会社(https://www.healthcare.omron.co.jp/)
- シミックホールディングス株式会社(https://www.cmicgroup.com/)
- 株式会社Save Medical(https://savemedical.co.jp/)
- 武田薬品工業株式会社(https://www.takeda.com/jp/)
- 株式会社テックドクター(https://www.technology-doctor.com/)
- 株式会社MICIN(https://micin.jp/)
- Ubie株式会社(本WG 4リーダー企業、https://ubie.life/)
- JaDHA特別顧問(硴﨑 裕晃 氏)
- 株式会社日本総合研究所(JaDHA事務局)(https://www.jri.co.jp/)
(五十音順)
(注1) 経済産業省・総務省「AI事業者ガイドライン」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/index.html
(注2)RAG(Retrieval-Augmented Generation):大規模言語モデルに、情報検索機能を組み合わせることで、より正確で信頼性の高い情報を生成する技術
(注3)国産大規模言語モデル:日本国内事業者が大規模言語モデルを一から開発したもの
(注4)プライバシー・バイ・デザイン:製品やサービス完成後ではなく、設計段階からプライバシー保護に資する仕組みを組み込む考え方
(注5)セキュリティ・バイ・デザイン:製品やサービス完成後ではなく、設計段階からセキュリティ対策を組み込む考え方
本件に関する問い合わせ先
【報道関係者様】 事務局(南雲) UN_6001.group@jri.co.jp
【事業者様】本WGリーダー(井上) public-affairs@dr-ubie.com
※入会に関するお問い合わせはJaDHAホームページ(https://jadha.jp/admission/index.html)をご覧ください。